それでも、日本人は「戦争」を選んだ
本書は歴史部などに所属する中高生に対する、著者による5日間に及ぶ講義を活字におこしたものである。
その内容は、まず、E・H・カーやアーネスト・メイなどの著名な歴史家の議論などを紹介し、物事を歴史的に考えるとはどういうことかを説明、
その後、日清、日露、第一次大戦、満州事変、日中、太平洋戦争の各論へと続いている。
表紙にもあるように、「普通のよき日本人が、世界最高の頭脳たちが、「もう戦争しかない」と思ったのはなぜか?」という問題に対して、様々な角度から噛み砕いて論じている。
基本的には、著者の別の著作のタイトルにあるように、それぞれの『戦争の論理』を読み解こうというものだ。
それに加え、基本的な歴史学の観点である出来事の因果関係や影響、著者の言葉を借りれば
「時々の戦争は、国際関係、地域秩序、当該国家や社会に対していかなる影響を及ぼしたのか、
また時々の戦争の前と後でいかなる変化が起きたのか」(8頁)についても説明している。
本書を読んで改めて実感するのは、この場合戦争だが、何らかの出来事は後世の人間が読み解いた国際関係や環境などが直接原因となるのではなく、
それらを同時代に生きた[人間]がどう解釈し、どう判断し、どのような決断を下したのかによって起こるものだということだ。
その合理/不合理性を判断するのは後世の学者の仕事になるのだろう。
歴史学に対して色々と批判はあるが、そこのところがきっちりしていないと、何らかの「事実に近い解釈」に近づくのは中々難しい。
本書の内容はというと、話し方などは平易ではあるが、相変わらず難しい。
というのも、様々な角度からの関連性や論理のつながりに目を向けているため、話があっちこっちにいったり、時代が前後したりしているからである。
丁寧といえば丁寧だが、理解するのにはちょっと根気がいる。
最後に、著者が松岡洋右びいきなのがちょっと面白かった。
太陽 [DVD]
昭和天皇の「人間宣言」前後を描く問題作です。公開が危ぶまれていましたが、無事公開、さらにDVDの発売までできて、良質の映画がお蔵入りにならなかったことをまずは喜びたいです。
でも、実験的な映像はなく、淡々とした昔の日本映画のホームドラマを思わせるシーンも多かったです。その分、静けさとそれ故の深い悲しみと微かな希望が画面を覆うのですが...。
タイトルの「太陽」とは、天皇そのもの、沈みゆく太陽、その一方で終戦後の新たな日本の夜明け? 色々考えられますが、そのどれもなのでしょう。昭和天皇といえば、口もとをパクパクさせ、人の説明に「あ、そ」と簡潔に答えるイメージ。それをイッセー尾形が単なる模写以上に「人間天皇」の味わいを醸している。その一見「こっけい」に見えるキャラクターを、むしろ、孤独で、哀れみを感じさせるような人格として表現している。
もちろん、昭和天皇は「あ、そ」だけの人じゃない。旨いも愉しいも言う。マッカーサーとの一対一の場面では、英語で応酬する天皇は飄々としています。マッカーサーが席をはずすと、ローソクを1本づつ道具で消していく姿も可笑しい。その一方で、昭和天皇は毅然として意見も言う。子供はどうしたか、と聞かれ、「疎開をしている」と答える。残忍な行為を恐れているからだ。広島に原爆を落とし、多くの人を殺した野獣として米国を見ている、と。野獣なら真珠湾攻撃はどうなのか、と切り返すマッカーサーに「私は命令していない」と毅然と反発する。
総体的に昭和天皇の愛すべき人柄がイッセー尾形の巧みな演技からにじみ出ているように思えます。
ゴーマニズム宣言SPECIAL天皇論
本当に素晴らしいです。
とにかく画に魅せられます。天皇陛下、そして皇后陛下の描かれ方にうかつにも泣きそうになりました。(特に私は右翼とか信者ではありません...)
今回の作品は全編漫画で構成されており、内容は大変わかりやすいです。
本帯に「入門書」と記されていますが、この「入門」を正確に理解している人は私達普通に生活している人の中にはいないでしょう。なぜなら、これまで一部の団体や人々により間違った「入門」を教えられたり、または意図的に教えられてこなかったからです。
皇室を正しく理解することは、日本という国の捉え方、歴史認識の変革につながります。ですから、本書の内容を把握する人々が今後増えることを願います。そうなることで一部の団体や人達は大変厳しい状況に立たされることになるでしょう。
今後の日本も捨てたものではありません。
読後感はスッキリです。日本に生まれて恵まれてるなと改めて思いました。
言論人、芸術家、職人としてもっともっと評価されるべき先生ですね。
昭和天皇と戦争の世紀 (天皇の歴史)
著者がいうように、皇太子時代に西欧を訪れて第一次世界大戦の惨禍をつぶさに目にした昭和天皇は、祖父にならって世界平和の重要性を痛感していたはずである。
ところが長ずるに及んでみずからが総攬する大権が憲法の制約下にあることを知りつつ、宮中、内閣、陸海軍、とりわけ幕僚に対してはラバウルや沖縄などの戦争政策に関しても積極的に発言し実質的に命令している。統帥権を掌握していた天皇は当然首相や閣僚が知らない情報まで把握しており、ある時は適切な、またある時は不適切な政治判断を示しているのである。
特にアジア太平洋戦争については陛下の個人的御聖断によって対米英戦争がはじまり、同じく彼の個人的決断によって終結し、その所為で無慮数百万の無辜の赤子を、海ゆかば海の底で、山ゆかばさいはての凍土や密林で玉砕させたわけだから、連合国がどう判断しようと人間一個の道義的責任ということをまじめに考えれば、形式的な法律論でこの人物を「無答責」と免罪するわけにはいかないだろう。
しかし、これでもかこれでもかと当時の客観的情報を並べて学者的分析を述べる著者は、この重大な問題について沈黙を守っている。じっさい当時の国内外、政官財軍民の動向はあまりにも複雑怪奇に入り組んでおり、本書を読めば読むほど、天皇を含めた諸個人の思想と行動の軌跡を精密に腑わけしてその功罪得失と論じ、あまつさえその因果応報を断じることは神ならぬ身には不可能に近いのではないか、という一種のあきらめにも似た慨嘆が湧きおこるのである。
NHKスペシャル 昭和天皇 二つの「独白録」 [DVD]
いわゆる「昭和天皇独白録」とは、1946(昭和21)年4月から6月にかけ、松平慶民宮内大臣・松平康昌宗秩寮総裁・木下道雄侍従次長・稲田周一内記部長・寺崎英成御用掛の5人が、張作霖爆殺事件から終戦までの経緯を4日間計5回にわたって昭和天皇から直々に聞き、まとめたものである。
本作は、1997(平成9)年6月15日にNHK総合で放送されたNHKスペシャル「昭和天皇 二つの『独白録』」をDVD化したものであり、英語版の「独白録」の発見から極東国際軍事裁判の舞台裏で行われた聞き取り作業の真相に迫ったものである。
私が注目したいのは、いわゆる「昭和天皇独白録」としてまとめられた5回の聞き取り以後も、木下と稲田の2人によって2ヶ月半にわたって聞き取り作業が続けられ、1946(昭和21)年10月1日に昭和天皇に奉呈されたとされる「聖断拝聴録」と呼ばれる記録である。
宮内庁は「聖断拝聴録」の存在すら「不明」としているが、木下の残した記録の断片と見られる文書で昭和天皇は「軍備が充実すると使用したがる軍人の癖」と「軍部の主戦論に附和雷同した日本人の国民性」が戦争防止を困難にしたという鋭い指摘もしている。昭和史の第一級史料として公開が待たれてやまない。