モーツァルト・フォー・ザ・ピープル [DVD]
モーツァルトのソナタなら、ポンス、ラローチャ、ピリス、あるいはバレンボイム等とお思いの方。確かに、優等生的、正統派ばかりでしょう。が、グルダにかかれば、モーツァルトの息遣いが聞こえる。人間性溢れるグルダのひたむきな演奏、テクニックにも舌を巻かざるを得ないだろう。こんなにも、慈愛と格調、喜びと品位に満ちたモーツァルトを発見でき、しかも良質なライブ画面・音声で聞けるとは!!ベタ誉め過ぎるかもしれませんが、来日公演が少なかったがゆえに、日本では今一つの評価のグルダを再発見していただくためには、聞いて損はしない1枚。亡きグルダをしのぶ、マニアならもちろん、太鼓判の必聴版です。
モーツァルト : ピアノ協奏曲第23番&第26番
今回このCDで初めて23番と26番を聴きました。二曲とも本当に素晴らしく美しい曲です。26番は、とにかくかわいい曲!第一楽章カデンツァの部分、ピアノの音が輝いている!第二楽章もやさしく温かさにあふれたメロディーが素晴らしい・・・第三楽章も軽快で、聴いていて楽しくなるピアノの旋律が流れまくっていて、音に乗って空を泳ぎながら光や雲を眺めているような気分。23番は、天から光が音になって降り注いでくるような、たとえようもなく美しい!としか言いようのない曲。第二楽章のメロディーは、聴くたびに涙が出そうになります。第三楽章は弾むようなテンポが楽しく、一番のお気に入りです。
モーツァルト:ピアノ協奏曲第25&27番
第20番・第21番に続くグルダ+アバド+ウィーン・フィルの演奏でこちらは75年5月の録音。
グルダはジャズも演奏するので、奇矯な面が強調されすぎるが、そういう雑音に惑わされる人は是非本作を聴いてほしい。この堂々として、かつ鍵盤の上で戯れるかのような軽快さと美しさを備えたピアノ演奏は、グルダがモーツァルトを愛する正統的なウィーンっ子だからこそ導き出された極上の音楽である。見方を変えればこれだけのオーソドックスな実力を持たないピアニストだったら、ただの変人で終わっていただろう。そういうグルダの正統派としての真価が発揮された名演。モーツァルト好きの人には一聴の価値ありの逸品だ。
第25番もよいが、モーツァルトが困窮の最晩年に作曲した第27番の余りにも澄みきった音の美しさに特に感動する。
フリードリッヒ・グルダ・プレイズ・モーツァルト・ピアノ・コンチェルト [DVD]
グルダのモーツァルトには他にはない自由さがある。
弾き振りをするグルダは少々滑稽な姿(というか、身のこなし)だが、
その演奏には「モーツァルトが生きていた頃はこんな風に“自由に”演奏してのだろうな」と思わされる。
グルダの弾く音楽は自由で、生き生きとしている。
オケも頑張っている。
グルダの“生きた”音楽にただついていくだけでなく、ただ合わせるだけでもない。
グルダとともに、とても生き生きとした演奏を繰り広げている。
グルダの真実―クルト・ホーフマンとの対話
原著は1990年発行。対話と銘打たれているが、内容はグルダ(1930-2000)が自分のことを「縦横無尽、奔放に語る」という語り下ろし。おそらくはグルダへの数回、数年にわたってあちこちでおこなわれたインタビューをまとめたもの。著者のクルト・ホーフマンは放送局のディレクターという肩書を持つ1954年生まれの音楽ジャーナリスト。
さて、日本語に訳されたグルダの語りにあてられた“俺”という一人称。仮にもクラシック系の演奏家に“私”以外の一人称を使わせる訳文は、他にあまりお目にかかった記憶がない。が、読み進むにつれ、これが実によく「ハマっている」ことに驚かされる。
グルダの演奏というと、衝撃的と言われた最初のベートーヴェンのソナタ全曲録音からしてすでに、まずリズムありきで根源的であった。気迫に満ち、夾雑物がない。くっきりとした輪郭とモノクロームの世界へと引きこむような立体感が不思議と輝かしく、聴く者を圧倒する。そこには、あらゆることから自由(フリー)でありたいという焦燥感に満ちた魂が息づいている。本書での語りも彼の音楽そのままで、オフビートの力強さに満ちている。いままでずっと、この人は音楽それもクラシックの演奏であれほどに「語る」ことができるのに、なぜ異形扱いされながらもジャンルを超えてジャズやフリーミュージックへも手を出し、なおかつ言葉で自分を語ろうとしたのだろうと不思議でならなかった。だが、この本を読んで、なんとなく胸に落ちるものがあったように思う。たかが本を一冊読んだだけでわかったような気になるなよという、グルダ本人の声も聞こえてきそうだが。
ウィーンさらに戦後しばらくの音楽事情や、彼がレパートリーとする作品および作曲家への興味深い論評、ブレンデル(手厳しいコメントの連続!)やアルゲリッチ(グルダのほぼ唯一の弟子)やフルニエをはじめとする演奏家について言及するその口調のなんと皮肉で爽快なこと!
昨今は音楽媒体がCDからネットでの配信へと切り替わる可能性を見すえてか、ヒストリカルな録音をあらためてリリースということが一気に増えた。グルダの音源もしかり。当人が本書で「音盤リリースをキャンセルして手元のテープはどこかへ行ってしまった」と言及しているモーツァルトのソナタの音源が彼の死後に発見され、2006年にリリースされたことは記憶に新しい。これからでも彼の録音を聴いてファンになるという人も増えていくのではないか、いや、増えてくれることを期待したい。入念なディスコグラフィを巻末につけたこの本もそろそろ増補版を出していただきたいものだが、さすがにそれは無理な話なのだろうか。