盗掘でわかった天皇陵古墳の謎
著者は、本書を通じて宮内庁が頑なに拒む天皇陵等の治定見直しに関して、盗掘された天皇陵、陵墓参考地
の事例をもとに現代の知見で再治定し直す時期に来ていることを示唆している。但し、皇室の祭祀に関わる
ため治定見直しに慎重な意見もあると思われるが、明らかに天皇陵ではない古墳(代表的なものが継体天皇
陵)をいつまでも治定しておくことの方が皇室や古墳の被葬者に対してよほど失礼であると思うのは私だけ
であろうか。もっとも天皇陵は奈良時代から明治時代にかけて既に何らかの盗掘を受けているところが多数
あり、さらには幕末から明治初期の修復工事で形状すら変形されているものも多い。本書は治定見直しの意
義を盗掘によってもたらされた事実から考える好著である。また盗掘者の末路に関する記述もあり、読み物
としても興味深く拝読した。但し、紙面の都合もあったと思うが、古墳の築造年代が新しくなるに従いボリ
ュームが薄くなっている点は残念である。例えば、伝聖徳太子陵について、そもそも太子の存在自体に疑問
符が付きつつある中、現在の治定に基づく伝太子陵の盗掘に関する記載はあるが、治定そのものについては
何も疑問が呈されていない。著者は本書の中で現代の知見をもとに治定の見直しを提言しておられる。読者
としては、例えば伝聖徳太子陵の治定に関する見解も披見していただきたかった。(論考がないということ
は治定に問題なしということかもしれないが…)
個人的には諸説あるが、明治初期の堺県令と伝仁徳天皇陵との関係のくだりは興味深く拝見した。特にボス
トン美術館蔵の出土物が伝仁徳天皇陵のものとは異なると報道(宮内庁発表)された日に本書と出会えたこ
とは、何かしらの縁を感じてならない。