ナナイロノコイ (ハルキ文庫)
女性ならではの、研ぎ澄まされた感性で書かれたストーリーはどれも良かったと思います。そのなかでもとりわけ、角田光代さんの「そしてふたたび、私たちのこと」は、素晴らしい作品だと思いました。恋愛のことはもとより、友情って何だろう、と考えさせられました。自分の友情と合わせて考えさせられる、一冊でした。この本を機に、角田さんの他の作品にも触れてみたいと思います。
海猫 [DVD]
正直、このレビューと主演の伊東美咲のドラマ「サプリ」を見て,
全く期待していませんでしたが、以外に良くてびっくりしました。
この映画は、一人の女性の生きていくという苦悩や苦しみとともに愛や性、
そして真の愛について描かれたものだと思います。
佐藤浩一演じる兄は、昔の日本男児を彷彿させる人物で、私の観た感じで
は、決して嫁(伊東美咲)を愛しているのではなく、彼女の体と”嫁”という
彼女の役割を愛しているのではないかという感じがしました。
これに対し弟(仲村トオル)はただ彼女の彼女自身を愛している。そしてヒ
ロインも,次第に弟の愛を必要とする。
それを阻むのは真実の愛があるか否かではなく、
兄や義母、ひいては周りの人々の世間体やモラルや
倫理といった様々な”立場”が非常に大きい。
私個人はこの作品のテーマも内容も非常に有意義
なものであると思います。
ただし、この映画を作品として見るためには、まず
数多くあるラブシーンを脱ぐ・濡れ場という風に捉
えるのではなく、夫婦だけど性欲だけのセックスと
不倫相手になる弟との愛の形のセックス。どちらが
本当に”正”なのかを考えながら観る必要があると
思います
最後に何人かの方がこのレビューで「青い目」と
言われたのに、次に映る瞳が茶色だという指摘をさ
れてありましたが、私個人としては、あのシーンは
ロシア(=外国=青い瞳)の血を引き継ぐ「外人」
に対する差別や牽制を示したもので、実際にヒロインの
目が青いかどうかはあまり関係ないものだと思います。
P.Sこの作品は夜中に観るといい映画と感じやすい
かもしれませんね。
言葉ふる森
言葉ふる森 山と渓谷社編 2010
作家の皆さんの森、山、里。
軽い文章もあれば、薀蓄ある人生訓もある。
梨木さんの文章は相変わらず、凄い。
「失われた次代の煌めきは、遠く輝く山々の稜線に似ている。
登れる稜線にしたいと思う、今でも。」
立松和平さんの、知床の熊の話も良い。
「熊の最終的な望みは幸福に暮らすことで、それは私たち人間もなんら変わらないのだ。」
ヒグマと人間が共存する知床の話である。(その存在を認めつつ、決してお互い危害を及ぼさなければ、共生できる)
はじめのひと滴・・・・・・寮 美千子
愚行の人・・・・・・栗林佐知
帰途・・・・・・堀江敏幸
西寧―ラサ チベット高原鉄道二千キロの旅・・・・・・篠田節子
山の目じるし・・・・・・佐伯一麦
ムンマジュンの棲む森・・・・・・出水沢 藍子
失われた時代の思い出・・・・・・梨木香歩
山が持つ二つの貌・・・・・・熊谷達也
知床の森のクマ・・・・・・立松和平
クライミングジム体験記・・・・・・大倉崇裕
大都市の山・・・・・・古井由吉
ミューア・マジック・・・・・・加藤則芳
山を書く・・・・・・南木佳士
民衆史のなかの山・・・・・・内山 節
里守り犬・・・・・・樋口明雄
離島を登れ!・・・・・・川端裕人
幸運な遭難者・・・・・・笹本稜平
「雪おとこ」伝説・・・・・・高田 宏
馬上少年過・・・・・・万城目 学
初めての登山・・・・・・川上健一
山が呼ぶとき・・・・・・小池昌代
山との日々・・・・・・あさのあつこ
山に登ること、谷を下ること・・・・・・前田司郎
大人の遠足でギアナ高地・・・・・・夢枕 獏
山靴は箱に入れてしまう・・・・・・平野恵理子
上高地の雪解けと戯れる・・・・・・谷村志穂
あのころ通った山・・・・・・谷 甲州
地獄・極楽・・・・・・池内 紀
浅間好日・・・・・・浜田 優
モンゴル紀行 天高く、草の大河・・・・・・佐伯一麦
余命 [DVD]
韓流9対邦画1という視聴バランスの私にとって,邦画の“難病物”ですから,主人公は死なず,お涙頂戴的な作品になるのだろうと思っていましたら,全く予想に反して,淡々とした日常生活が描かれているだけの作品でした。
しかし,その淡々とした中に生と死を見つめたテーマが隠されていて,お医者さんと乳癌という二つの緊張素材に“赤ちゃん”という緩和素材を見事に絡ませた感動作になっています。
松雪泰子さん(滴役)が,一見クールだけれど,実際には弱さ,脆さを抱えた女医役を好演していて,男の私が言うのも変ですが,滴が一人病室で涙しながら,赤ちゃんを抱き,授乳しているシーンは感動ものでした。
映像的には,百田家(主人公夫婦)のセットも,良い意味での生活感があり,インテリアの小物使いのセンスも良かったと思います。また,春の桜,緑の生い茂る夏,落葉の頃,白く降り積もった雪と,季節感の描き方も素晴らしかったです。この季節の動きが滴の体調の変化とリンクしていたようにも感じました。
癌を告知され,すでに手術で克服したと思っている私ですが,本作の10年後の再発には唸ってしまいました。しかし映画では,その辺りの後味の悪さを全く感じさせず,心が温かくなる作品に仕上げてくれています。
何より健康であること,家族と一緒にいられることの日常など,一見当たり前と思えることに対する尊さを再認識させられる秀作です。