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中井英夫全集 (3) とらんぷ譚
『虚無への供物』で名高い中井英夫氏の文庫版全集第三巻は,もう
ひとつの大作『とらんぷ譚』全話が収められている。
『とらんぷ譚』は,雑誌「太陽」に連載された,『幻想博物館』『悪
魔の骨牌』『人外境通信』『真珠母の匣』の4つの連作シリーズに,さ
らに2作を加え,一冊にまとめたものである。元となった4つのシリー
ズは,互いに関連しあい,全体で長大な長編小説として読むこともでき
る。
連載当時,『人外境通信』中の一作を読み,子どもだったので,
よくわからないながらも,その妖しさに「これは深入りしたらコワイ世
界かも」と感じたのを懐かしく思い出す。
ひとつの大作『とらんぷ譚』全話が収められている。
『とらんぷ譚』は,雑誌「太陽」に連載された,『幻想博物館』『悪
魔の骨牌』『人外境通信』『真珠母の匣』の4つの連作シリーズに,さ
らに2作を加え,一冊にまとめたものである。元となった4つのシリー
ズは,互いに関連しあい,全体で長大な長編小説として読むこともでき
る。
連載当時,『人外境通信』中の一作を読み,子どもだったので,
よくわからないながらも,その妖しさに「これは深入りしたらコワイ世
界かも」と感じたのを懐かしく思い出す。
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新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)
何度読んだことだろうか。
最初が三一書房版、講談社現代推理小説大系版、講談社文庫版、そして覆刻版を所有している。
講談社文庫版は、あまり繰り返し読んだために、何度か買い換えたものである。
今までのところ、本作を超えるミステリには出会っていない。
多分、これからも出会うことはないだろう。
孤高の傑作である。
本新装版は分冊であるが、できれば全一冊の厚さを堪能してほしい。
そして、その官能的なまでの文章に酔ってほしい。
ストーリーに関しては述べない。
氷沼一家をめぐる事件だとだけ言っておこう。
いくらでも語ることはできるが。中井英夫、いや塔晶夫の悪魔的なまでのストーリーテラーぶりを堪能するのには、百万語を費やしても足りないくらいだ。
そして、本作には都市としての東京の存在が大きい。
著者はアンチミステリとして本書を書いたようだし、一般的にもそのように認識されている。
しかし、第一級品の本格ミステリである。
昭和の息吹が、痛いくらいに感じられる。
「三丁目の夕日」なんかめじゃない。
これこそが、昭和を代表する文学である。
はたして、もう一人の昭和を代表する文学者である三島由紀夫の本作に対する評価は、非常に高い。
実は本作は、三島作品と非常に良く似た雰囲気をもっている。
具体的には指摘しないが、同じ空気を感じるのだ。
それは、まさしく虚無感というものかもしれない。
そう、「春の雪」から始まる豊饒の海四部作は、本作と同じにおいがする。
しかし、けっして読みにくいわけではない。
いや、むしろスラスラ読める。
現代の若者たちでも、抵抗なくスピーディーに読めるであろう。
しかし、そのペダントリィをきちんと理解するためには、ある程度以上の教養が必要なのもまた確かなことであり、そういう意味では読む人を選ぶ作品かもしれない。
このペダントリィは小栗のものとは違い、けっして難解ではない。
もし、この作品に狂気乱舞できる若者がいたら、実に嬉しいかぎりである。
君は一生の宝物を手にしたのだ。
さて、この作品は誰に感情移入して読むかで、かなり評価が分かれるであろう。
できれば「彼」に感情移入して、もう一度読み直してほしい。
本作の評価が多分ガラリと変わるのではないかと思う。
そのとき、目眩く中井ワールドの入り口が見え、ドップリと深みにはまるのである。
何度読んでも、いつも新しい発見がある。
本作こそ、無人島に持って行く一冊にふさわしいものである。
最初が三一書房版、講談社現代推理小説大系版、講談社文庫版、そして覆刻版を所有している。
講談社文庫版は、あまり繰り返し読んだために、何度か買い換えたものである。
今までのところ、本作を超えるミステリには出会っていない。
多分、これからも出会うことはないだろう。
孤高の傑作である。
本新装版は分冊であるが、できれば全一冊の厚さを堪能してほしい。
そして、その官能的なまでの文章に酔ってほしい。
ストーリーに関しては述べない。
氷沼一家をめぐる事件だとだけ言っておこう。
いくらでも語ることはできるが。中井英夫、いや塔晶夫の悪魔的なまでのストーリーテラーぶりを堪能するのには、百万語を費やしても足りないくらいだ。
そして、本作には都市としての東京の存在が大きい。
著者はアンチミステリとして本書を書いたようだし、一般的にもそのように認識されている。
しかし、第一級品の本格ミステリである。
昭和の息吹が、痛いくらいに感じられる。
「三丁目の夕日」なんかめじゃない。
これこそが、昭和を代表する文学である。
はたして、もう一人の昭和を代表する文学者である三島由紀夫の本作に対する評価は、非常に高い。
実は本作は、三島作品と非常に良く似た雰囲気をもっている。
具体的には指摘しないが、同じ空気を感じるのだ。
それは、まさしく虚無感というものかもしれない。
そう、「春の雪」から始まる豊饒の海四部作は、本作と同じにおいがする。
しかし、けっして読みにくいわけではない。
いや、むしろスラスラ読める。
現代の若者たちでも、抵抗なくスピーディーに読めるであろう。
しかし、そのペダントリィをきちんと理解するためには、ある程度以上の教養が必要なのもまた確かなことであり、そういう意味では読む人を選ぶ作品かもしれない。
このペダントリィは小栗のものとは違い、けっして難解ではない。
もし、この作品に狂気乱舞できる若者がいたら、実に嬉しいかぎりである。
君は一生の宝物を手にしたのだ。
さて、この作品は誰に感情移入して読むかで、かなり評価が分かれるであろう。
できれば「彼」に感情移入して、もう一度読み直してほしい。
本作の評価が多分ガラリと変わるのではないかと思う。
そのとき、目眩く中井ワールドの入り口が見え、ドップリと深みにはまるのである。
何度読んでも、いつも新しい発見がある。
本作こそ、無人島に持って行く一冊にふさわしいものである。