ウズベキスタンと言えば、サマルカンドやブハラといったロマンチックなシルクロードのイメージがまず連想される
著者であるティムールダダバエフ氏はそんな中央アジアにおける現実と実態をソビエト時代から
観察してみずから体験しているだけに本書の内容は
極めて充実している
ウズベキスタンに暮らす人々のアイデンティティーはソ連時代においては自分は世界の6分の1を占める大国ソビエト人だという誇りであったが
ソビエト崩壊後、脆くもそんな共同幻想が崩れ
それに経済的低迷、政治の混乱が追い打ちをかけ
人々の連帯感も薄れつつある現実・・
それにとって替わる普遍的価値であるイスラム教の意外な側面など本書から教えられるものは多い
私にとって意外だったのは、現地のイスラム教と人間の関係が外部世界から見るのとは正反対に
希薄であることだ
例えば、タシケントのような都市部では酒を飲んだり、平気で豚肉を食べるムスリムが多いこと
若者たちの宗教離れなど、人と人との関係が個人主義的になり、かつての地域共同体の温もりが急速に失われつつあるという
しかしながら、それが近代化の避けられぬ宿命なのかも知れない
ソ連時代においては
大半のウズベキスタンの人々が母国語を失ない
ロシア語しか喋れない情況に危惧の念を抱いていた
ロシア語が喋れないと社会でより良い職種やキャリアを積むことが出来ない現実と
母国語を大切にしたいという二律背反ジレンマに陥っている現状にも深く考えさせられた
現代のウズベキスタンは失業率も高く、生活水準はソビエト時代よりもひどいという
まるで「ジャングルにひとり取り残され、生き延びるためにサバイバルしているような」心理状態に国民は置かれており
かつてのソビエト時代の頃のほうが良かったと昔を懐かしむ人々もいるようである
かつてシルクロードの中央に位置したウズベキスタンもロマンだけでは語りきれない苦悩の現実があるようだ
これからシルクロードを旅される方、特にウズベキスタンへの訪問を考えておられる方にぜひお薦めの一冊です