華の乱 [DVD]
成田三樹夫ファンの僕としては、彼目当てでこの作品を観た。とても面白い作品だと思いますよ。ただ、大正ロマンの美しさというより、激動の時代をたくましく生きる女性を力強く描いていて、想像してたのと若干違った風情だった。まぁ、深作らしいといえばらしい作風なんですけど。それと、松田優作が出てるの知らないで観たからビックリした。
成田三樹夫と松田優作の共演作は僕が知ってるかぎり、これと「探偵物語」と「蘇る金狼」。この二人が絡むと特別な空間が広がる。この作品でも、ファンである僕としてはたまらない場面が幾つかあった。個人的にはアンチヒーローのアウトローもいいが、この作品や「ひとごろし」の時の優作のほうが、生身の人間の弱さや醜さをうまく表現していて好きだ。成田三樹夫と松田優作、このふたりの名優を失い日本映画はつまらなくなった。この二人の奇跡の共演を観るだけでもこの作品には価値があると、個人的には思う。
小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)
妻を失い、新しく芸術に生きようとする作家としての覚悟と、残された小さき者たちへの思いを綴った『小さき者へ』。
優れた画の才能をもちながらも、貧しい生活ゆえに漁夫としてしか生きられないといった葛藤の中で生きる若者によせた『生れ出づる悩み』。
「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ」
朗読 日本童話名作選「でんでんむしのかなしみ」
自宅介護している病気の父親のために購入しました。
たくさんの話が入っていることと話し手さんの話し方が非常に聞きやすいので良いと思いました。
父親は、それなりの年齢のため、知らない話が多いかもしれませんが、基本的に童話ですので誰でも楽しめる内容だと思いました。
一房の葡萄 (角川文庫クラシックス)
「一房の葡萄」は人間なら誰しもが持つ自分の中の“悪”をしっかりと捕らえる物語です。悪いことと知りつつも衝動的に盗んでしまう子どもの心を描写しています。この真理を自分の中にもあることしっかり見つめてほしいと著者は思っていたのではないかと思いました。
この、人の中にある“悪”は、子どもの中にあるだけではないはずです。大人にもあるもので、大人にも訓示的なものであると思います。また、子どもが、悪いと分かりつつもやってしまったことに対して、大人がどのように対応するのが良いのかも示されています。
この童話は、子どものためのものだけでなく、大人のためのものでもあると感じました。
日本脱出記 (ペーパーバック版)
エッセイストの井上春樹氏より、つぎのような書評を寄せていただきました。(土曜社)
関東大震災の犠牲者を忘れてはならない
―「イマジン」をBGMに読みたい本―
3・11の大地震に遭遇したのは羽田空港で、「帰宅難民」として川崎のコリアタウンを通過した。大地震とコリアの連想から、88年前の関東大震災時の朝鮮人虐殺を思い出した。壊滅的被害を受けた横浜の被災民の間に広まり、恐るべき速度で多摩川を渡って北上した朝鮮人暴動のデマ。多くの朝鮮人だけでなく、訛りのある東北出身者まで、興奮した自警団らになぶり殺された。地震や火災からは生きのびながら、理不尽な死に目にあったのは、朝鮮人たちだけではない。労働組合の活動家たちやアナキスト・大杉栄らも犠牲となった。震災後の混乱に乗じて悪事を企んでいるに違いないという憶測だけで、大杉は憲兵隊に拉致され、虐殺された。一緒にいた内縁の妻・伊藤野枝も、わずか6歳の甥の橘宗一までも巻き添えになった。
大杉が当時の軍部に何故これほど憎まれたのか、彼の遺作「日本脱出記」を読めばなるほどと思い当たる。厳重な監視の目を逃れて日本を脱出した大杉はパリに到着する。だがめざす国際アナキスト大会は延期され、労働者の街・サン・ドニのメーデー会場に向かう。そこで聴衆に街頭行動を呼びかけた。得意のフランス語で演説したのだ。東洋人のアジテーションは喝采を浴びた。逮捕された彼を追いかけ、人々は革命歌を歌って励ます。移送されたのはラ・サンテ(健康)という皮肉な名称の刑務所だ。そのせいか獄中の大杉はすこぶる元気だ。もともと飲めないワインを試してみたり、愛娘・魔子に贈るメッセージを綴ったり、獄中生活を楽しんでいるかのようだ。
外国語を駆使して秘かに海を渡り、各国同志との交流を拡げ、その活動をメディアに流して宣伝し、資金を得る。堺利彦の「売文社」で学んだ手法を活用した「闘い」を大杉は果敢に実践した。これほど活発に反抗する敵を権力が放っておくわけがない。国家に害をなす危険人物として悪宣伝を流し、甘粕大尉たち憲兵に虐殺させたのだ。しかも3人の遺体を古井戸に投げ込み、犯行の隠蔽を図った。大杉栄という人物も、精神も、日本帝国には存在しなかったかのように。
だがその試みは失敗した。大杉たちの思想は、自由を奪われ、貧困に苦しみ戦争に反対する人々に受け継がれてゆくのだ。たとえば、大災害の後、決まって流されるジョン・レノンの「イマジン」の歌詞を注意深く読んでみればよい。この歌が描く世界こそ、アナキスト・大杉の求めた世界そのものではないか。
「日本脱出記」は、彼の思想を理解するための格好の入門書である。
井上春樹(エッセイスト)