波の盆
ある夏の昼下がり,高速を走るクルマで何の気なしに聴いていたFMラジオはちょうど武満の追悼番組。出演者(名前は忘れた)の話によると,武満の告別式で前の席に座っていたある米国人音楽家が,親友の早過ぎる死の悲しみに耐えてそれまで何とか気丈さを保っていたのだが,会場にこの曲が流れた途端こらえきれずに激しい嗚咽を始めたという。そして,車内に満ちあふれた豊穣な弦のハーモニー。この世にこんなに自然で美しいメロディがあったのかと,ハンドルを握りながら自分も涙が止まらなくなった。1983年,TVドラマのために録音された組曲。自分のときもこれを流してもらおうとひそかに心に決めている。
武満徹全集 第1巻 管弦楽曲
CDも勿論だが、分厚い解説本は情報量が極めて多く、武満の曲に関心があり、要するに好きな曲がいくつかあり、CDを持っていて、これから他の曲も聴いてみよう、演奏しようと思っている方なら、思い切って購入する価値がある。特にこの第一巻は、武満トーンの中心、オーケストラ曲であり、最も重要なレパートリーが全て含まれている。
この聴きがいのある全集は、外から見ても美しく、時間をかけて未知の音楽を紐解いて行く楽しみがある。
もちろん、価格が高いと言ってもCDを一枚一枚買い集めることを考えれば、断然お買い得で、決して後悔することはないだろう。