プライス一家は、いつも一日遅れ〈上〉 (扶桑社セレクト)
一言で言うと、「渡る世間は鬼ばかり」のブラック版、または、映画「SOULFOOD」の小説版。
家族がテーマでありながら、これをテリーが書くので、これまで通り辛口な男女関係が軸となります。けれども、全体に温かい愛情が貫かれています。ファンとしては待たされた甲斐があったという作品です。
テリーの作品はブラック・カルチャーに根ざしてあるので、その背景については、知らない人は知らないというところがありますけれども、易しい注釈もついています。また、登場人物が多く、年齢層も幅広いので、その中にきっと自分に似た人を見つけられるのではないでしょうか。
フリーダムランド〈下〉 (文春文庫)
夜も更け行く頃転びそうな足取りでしかも擦り切れたような身体で何とか病院に辿り着いたBrenda Martin。彼女は黒人男性に車をハイジャックされ、しかも車の後部席には四才の息子Codyが乗っていたと語った。こんなところから話がスタートするので、これは誘拐された子供を救い出すサスペンスノベル、或いは犯人を追跡するストーリーかと思いながらページを繰りましたが、100ページも読み進めたところで、全く私の思惑違いであることに気付きました。まあ私の好きな種類の小説ではありませんが、小説の質そのものがかなり高度なものであることは否定しようもありません。驚異的高密度の文章、まるで細密画を何枚も並べたようにデイテル部を丁寧に描写した小説作法には、正直驚かされました。ここまで詳細に書く必要があるのだろうかと頭を傾げたくなるほど一つ一つの場面を実に詳しく書き、そこから縦横無碍にストーリーを展開させています。又、右に左に揺れ今にも自己崩壊しそうになりつつ、何とか己を維持しているBrendaの姿には鬼気迫るものがあり、男性作家がこれほど見事に女性を描き出したのには驚愕させられました。ストーリーは四才児Codyの行方を捜査するLorenzo刑事と、事件の独占記事に貪欲な意を燃やす女性記者Jesseを柱に据えて進行しますが、これはクライムノベルと言うより、事件をきっかけとして燻りだした人種間対立や事件の周囲に蔓延る様々な人達の諸事情を浮き彫りにした社会小説と言ったほうが正鵠を得ているのではないかと思います。
500年のトンネル 下 創元推理文庫 F フ 7-2
作者がファンタジー分野で活躍している人なのでこの本もファンタジーに分類されていますが、竜も魔法も妖精も出てこないのでそう言うのを期待するとあてが外れるかもしれません。
でも現代人の視点で16世紀を見たらどうだろうと言うのをちょっとした仕掛け(本書の場合はタイムチューブ)を使ってうまい具合に纏めていて楽しめます。
続編も近日出るようなのでそちらも楽しみです。