くろふね (角川文庫)
黒船来航時に指揮をとった中島三郎助は、その後近代海軍の建設に携わり、榎本武揚に従って己の道を突き進んだ。
本作は技術者としての観点から、近代日本の経験した、のたうちまわるような陣痛の苦しみが描かれる。
セリフの言い回し、歴史観は佐々木譲節が節々に感じられる。ほぼ同名の黒船 (中公文庫)と色々な点で対照的であるのが興味深い。
幕臣たちと技術立国 ―江川英龍・中島三郎助・榎本武揚が追った夢 (集英社新書)
歴史(正史)とは、基本的には勝者・強者が創り上げるものであり、当然の事ながら、明治維新に象徴される日本の近代化黎明期においても、特に幕府側の人物像については不当な歪曲や矮小化などが行われている。本書は、幕末の激動期を駆け抜け、正史の上では貶下されがちな3人の技術系幕臣に係る評伝である。この3人の幕臣とは、「早すぎた男」江川太郎左衛門英龍(1801〜1855)、「陣痛期を生きた男」中島三郎助永胤(1821〜1869)及び「近代化に殉じた男」榎本釜次郎武揚(1836〜1908)であり、それぞれ簡にして要を得た内容となっている。
当書では取り分け、江川英龍、中島三郎助に対する著者の愛惜の念が行間から迸っており、実は私も、中島三郎助に関しては正直、胸にこみ上げてくるものがあった。長州の桂小五郎(木戸孝允)らに洋式造船術と西洋兵学を教えたこともあるこの好漢は、榎本武揚、土方歳三などと京都政権軍に挑み、最後、箱館にて長男・恒太郎、次男・英次郎と共に果てたのである。まさに彼こそ「ラスト・サムライ」というに相応しい人物であり、著者も語るように「幕臣として、サムライとして、そして技官としてまっすぐに生きた三郎助の死は、わたしたちの胸をうつ」(P.148)のである。