鴨川ホルモー (角川文庫)
【鴨川ホルモー】ホルモンじゃなくて、ホルモーが青春だ
「ホルモン」ではなく、「ホルモー」。
この小説を手に取ったら、たぶん、頭の中で確認してしまうだろう。
この「ホルモー」という響き。何のことだろう?と興味をひかれる。
「ホルモー」とは、「オニ」を使って戦う競技のことだ。
舞台は、京都。
京都大学に入学したばかりの俺、「安倍」が主人公。
いきなり、怪しげなサークルに勧誘され、「オニ」の使い方を伝授されていく。
そして、京都にある大学対抗競技「ホルモー」に参戦することになる。
「ホルモー」は団体競技。大学、サークル、団体競技とくれば、メンバー同士の人間関係、恋愛がミソになる。
「オニ」の使い方を伝授されていく過程は、「オニ」の存在が浮いている感じがして、「マンガみたいだなぁ」という印象が強かった。
しかし、サークルのメンバー同士の人間関係、恋愛模様が色濃く描かれだす後半部分は、「オニ」について、「まあ、こういう存在があってもいいかぁ」と思えてきた。
青春の思い出となるような出会い、出来事。誰にでも似たような経験があるだろう。
そこに「オニ」を使った「ホルモー」を、スパイスに使っている。
大学卒業から時間が経っている人は、読み終わった後に、懐かしく、爽やかな気持ちになれる。
プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
以前、ドラマ版の鹿男に夢中になったこと、
そして自分が大阪人であるということで、この本を手に取りました。
作者が大阪出身なので、非近畿圏の作者が書く、
しつこいような(でんがなまんがな調な)違和感のある関西弁ではなく、
関西人にとって違和感の少ない、自然な関西弁で、
地元の人間としては読みやすく、親しみも持てました。
内容については、この作品ではどれを述べてもネタばれになりそうな感がありますので多くは書きませんが、
帯や内容紹介にある、「大阪全停止」というのは、全体の三分の二が終わってからのことで、
それに関する謎解きの類いもあまりありませんので、
帯や内容紹介を見て買おうか悩んでいる、という人には注意が必要かもしれません。
メインは「会計検査院から検査に派遣された三人対大阪」という構図で話は進んでいくのですが、
中盤辺りから、まさに荒唐無稽、ややファンタジーや妄想の域に入るほど、
話は明後日の方向に向かっていきます。
しかし、それも作者の歴史と大阪人気質に関する造詣の深さでなんとかカバーされ、
骨のある話になっていると思います。
特に面白いのはそれぞれの登場人物の名前でしょう。
東京(つまり東)から派遣された三人がそれぞれ松平、旭(これはファーストネームですが)、鳥居、
大阪(つまり西)に住む人々の名前が、真田、橋場、島と、
戦国時代後期の歴史に詳しい方なら、
名前だけで登場人物の大体の立ち位置がわかるような構造になっています。
話の内容的にも、歴史についてより詳しい方が、ニヤリとできる箇所が多いかもしれません。
また、荒唐無稽な話でありながらも、根底のテーマはしっかりとしたものを持っていて、
ただ作者の妄想を書いただけの絵空事に留まらない、面白い小説でした。
プリンセス トヨトミ DVDスタンダード・エディション
政府から大阪に派遣された会計監査院の三人(堤真一、綾瀬はるか、岡田将生)が、監査のいっかんとして訪れたのが謎の組織「OJO」(大阪城を管理するとかいう名目の社団法人)。
ボロい建物の小さな組織で一見なんの問題もないように見えたが、調べているうちに考えられないような大阪の事実に直面する...といったお話。
小和田 哲男氏の「豊臣秀吉」を読んだ直後にこの映画を見たので、21世紀の太閤伝説について感慨深いものがあったが、大阪在住で大阪を何よりも愛する男として真っ先に感じたのが、大阪独立国家と言ってる割には、たかが会計監査院の副長(堤真一)相手になにやっとんねん、と。
仮にも江戸時代は日本一の商業都市、明治大正時代は世界のトップクラスの大都市が独立国家を名乗るのは別に100%ありえない話ではない。ただ独立国家になるということがどういう意味をなすかということについて少なくともこの映画作品(原作は読んでないから知らないが)はつめが甘すぎる。しかも、王女?君主政治にするつもり?太閤秀吉さんは王でも将軍でもなく関白です。
しかも秀吉は大阪の主ではなく全国制覇し朝鮮まで侵略した人物で、果たしてどれだけ大阪のことを愛していたかは疑問。それにしては大阪人は太閤秀吉さんがすきやねー。
秀吉軍の旗に使われた瓢箪で大阪の男たちが立ち上がり、どんな国になるのかなー、王女はどうなるんだろう?と思っていたら、なんか男と父親のつながりがテーマみたいになってきて、話の焦点がずれてくる。
だけれども、単なるコメディと割りきって見ればそれなりにおもしろいし、堤真一と中井貴一という今が旬の演技派のぶつかり合いも素晴らしいし、綾瀬はるかのボケ役もかわいい(関西弁ヘタクソやけど)から見て損はないです。
かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)
小一の「かのこちゃん」と「すずちゃん」の「ふんけーの友」ぶりが愛らしく描かれている。この部分は写実的。学級担任の先生も、出番は少ないが素敵な先生だ。
マドレーヌ婦人は猫。毛色がマドレーヌ色!だからと「かのこちゃん」が付けた名前。こちらは猫又になったり犬語を話したり、万城目文学らしい幻想的なストーリー部分を担っている。
「鹿男あをによし」で臨時教員だった理系の主人公が、ほんわかしたパパぶりをみせる。これはファンサービスですね。
鴨川ホルモー(韓国本)
おそらくこの著者はスロースターターなのでしょう。前半は京都の歴史とかタイトルにある「ホルモー」の説明に終始して、少し退屈な印象を受けました。私は京都に住んだ経験があったので前半も面白く感じられる部分も多かったのですが…。
でも後半から面白くなってきます。というか急に勢いが出てくるのです。「青春」、「恋愛」、「友情」、「笑い」読んでいて心地よいキーワードが巧みに編みこまれていき、最後は綺麗にまとまります。読後感は爽快そのものでした。
でも間違っても感動を求めてはいけません。タイトルや表紙から想像できるようにこれは純粋な娯楽作品です。ハリウッドのB級映画を観る様な寛大な気持ちで読むことをお勧めします(笑)