修羅の群れ [DVD]
東映の任侠路線をかざった大スターたちが集まった実録大作。高倉健・安藤昇・藤純子以外は全て出演しているといって過言なし。稲川組・稲川総裁の半生を緻密な取材を元に映画化。俊藤プロデューサーは第二段を作る予定でいたが、稲川総裁の許可が下りず実現しなかった。こんな映画はもう製作不可能。
鶴田も若山も山下監督、そして俊藤監督も鬼箱に入られた。
巨乳をビジネスにした男 [DVD]
製作記者会見のときから見たいリストに加えていた作品。元イエローキャブ社長で現サンズ社長の野田義治の半生を遠藤憲一が演じます。記者会見では遠藤憲一が野田義治に似てるだとか共演者が言ってましたが、そんなことはどうでも良く遠藤憲一の本作での存在は極めて大きく起用は大成功だったのではないでしょうか。やはり抜群の知名度を誇るグラビアアイドルが出演しているのが見もの。故・堀江しのぶ役には、セリフがヘロヘロの小阪由佳というのが正直ガッカリだった。同じくヘロヘロ声の浜田翔子もバストが小さいのになぜ主役なんだ?の声も多く聞かれたが、実際に見ると幸が薄い少女が売れっ子になるという設定ではなかなかハマり役だった。鷲巣あやのは、「転生」ではまだ頼りない演技しか出来ていなかったのに本作では常にミュージシャンにこだわりを持つアイドルとしての役割をしっかりこなしていて見ていて安心できる。イメージビデオは全作見ている福永ちなも演技を見る機会はなかったので、上を目指すバラエティータレントとしての演技は貴重だった。セピア調でボヤけた映像も良かったし、全体的に深く考えずに楽しみ見れた。しかし野田義治と村西とおるとの間にこんな親交があったとは意外。
カラオケ [DVD]
冒頭の説教臭いナレーションに萎えるし、「頑張っているお父さん達を応援」「お父さん達の凄さを若者達に教える」という意図は良いのだが、あまりにも押し付けがましい演出&脚本に辟易。低予算でB級感満載だし、松竹の下町調の人情喜劇みたいな作風は好き嫌いが分かれそうだけれど、今時のやる気や作品の舞台になる時代への思い入れが感じられない歴史物のテレビドラマよりはずっと時代考証もしっかりしていて、中々面白かった。
押尾学は、本人は日活や東映のヤクザ映画のようなキャラを演出しているみたいだけれど、『男はつらいよ』の寅さんのような役柄の方が似合うのでは?「ちょっとだけヤクザで、実は気がいいおにいちゃん」って押尾学そのものだと思うんだけれど。クールでワイルドな演技が評価されていたし、現代版寅さんになって欲しいと期待していたけれど、MDMAで逮捕されたんじゃもう無理か?
吉岡美穂は、美人だけれど演技は下手だね。演技が下手なだけならいいけれど、個性も存在感も無い。美人なだけじゃ女優になれない。山田麻衣子やちょっとしか出ていない貫地谷しほりの方がずっと印象に残った。
宇崎竜童・室井滋・小沢仁志・ベンガル・高田純次・間寛平・蟹江敬三と、出演者が豪華。千昌夫も千本木昌夫という役名で出演している。高田純次がいつものテキト〜キャラではなく、意外にも芸達者(失礼)。演技も存在感も個性的なので、この人は演技者としても評価されて欲しい。
ちなみに副題は「人生紙一重」。今となっては意味深なタイトルになってしまった…。
勝田清孝事件―冷血・連続殺人鬼 (新風舎文庫)
一体、犯人は何を求めたのか。失敗をしながらも認められ、幸せをつかんでも、それ以上に何を求めたのか。犯人をここまで駆り立てたものは何だったのか。その理由とこの悲惨な事件とのバランスがあまりにもとれていない。
著者の本はこれまでにも何冊も読んできたが、この事件を著者が取り上げたことは私にとっては良かった。
十三人のユダ―三越・男たちの野望と崩壊 (新潮文庫)
もう30年も前に名門百貨店・三越で発覚した、社長と愛人による会社の私物化と癒着、そして社長解任のクーデター成功までを描いたドキュメンタリー・ノベルである。
事件のことはネット上の記事で知った。社長解任の取締役会を「反骨と愛社精神に満ちたサラリーマンの反逆」と捉えていた私には驚きの連続だった。ことはそれほど単純な図式ではなく、様々な立場にあるサラリーマンの内面と葛藤を読み取ることができる。
独裁の社長に忠誠を誓って出世を狙う男、三越の将来を憂いながら会社を去る男、社長を守ると誓いながら土壇場で裏切る男、実力あるが故に疎まれる男、出世をチラつかせられて従う男……度を過ぎた専横から部下に見限られ、次第に孤立していく社長の心理と愛人の関係も生々しく、それらが「なぜだ!」という流行語を生んだ「裏切りの取締役会」に集約していく様は圧巻である。元になった事件こそ過去の話ではあるが、結末に興味を持たせる構図に古臭さを感じることはない。
ドキュメンタリー・ノベルは「ノンフィクションでは書けないものを小説形式なら書くことができる」長所があると同時に、「どこまでが真実かわかりにくい」欠点がある。しかし、綿密な取材に裏付けられたと思われる本書の詳述は、まず内容は事実であろうと思わせる説得力を持ち、登場人物の様々な思惑や心理は、いかにもありそうな人間臭さに満ちていて、故にこそ迫真力を感じさせる。小説とノンフィクションの「いいとこ取り」を両立させた好著である。
この事件の主役であった三越の社長・岡田茂は1995年に、そしてもう一方の主役・竹久みちも2009年に死去し、百貨店業界も大きな再編の渦中にある。もう過去の事件ではあるが、再評価されても良い本ではないだろうか。