村崎百郎の本
2010年7月、村崎百郎が刺殺されたことで出版された書籍。
彼の文章と友人・知人へのインタビュー、彼より下の世代のライターの座談会などで構成。
「鬼畜のススメ」「電波系」は私も刊行されたときに読んだ。
今、再録された彼の文章を読むと、その過剰さに驚く。
偽悪的な文、アントナン・アルトーにささげた文、
それぞれがあふれんばかりの七転八倒する勢いで熱く語られている。
収録された座談会での彼より下の世代のライターたちの
村崎が唾棄すべきものとした“すかした”態度とまさに対照的である。
だが、その過剰さ、その熱が数多くはないが、
確実に日本で暮らす何人かを救ったことが寄稿者の言葉で証明されている。
座談会で語ったライターにはそれだけの力のある文章は書けるのだろうか?
人はその生きた時代においてしか考え、発言し、行動することはできない。
自分が生きている時代をその時点で超えることはできないのだ。
ただ、それを踏まえて未来、そして現在を考えて生きていくことが重要である。
そのことが、結果として同時代に生きる人、未来に生きる人に影響を与えることがある。
小杉英了という人が、シュタイナーと三島由紀夫を語るときにそんなことを書いていて、
私はその趣旨に感銘を受けた記憶がある。
人はその時代を超えて生きることはできない。
だが、その人の何かは時代を超えることはある。
そのことを思い出した。
90年代半ばから後半にかけて一気に注目された彼のことは
本書で語られているように
雑誌文化の黄昏期にあらわれた象徴的な存在といえるのかもしれない。
日本の文化史において忘れ去られてはいけない人物と
この本を読み、感じた。
思い切って★5個にする。
充実したレビューが並ぶ中におこがましいのですが、
読後に書いておかないと忘れてしまってはまずいと思い書きました。何か書かなくてはと。
勢いあまって載せさせてもらいます。論旨もちょっとぶれてるかも。
すみません。
波止場 コレクターズ・エディション [DVD]
主演M・ブランドは1951年“欲望という名の電車”から5本中なんと4本もアカデミー賞にノミネートされ、やっとのことでオスカーを手にした話題作。この作品もアカデミー賞12部門にノミネート、うち8部門受賞という快挙でした。
この時すでにブランドはハリウッドで最高の男優であったが、あまりにも暴力シーンが多く教育関係者からは批判も多かった。
冒頭からかなり暗い映像で、ギャング映画には間違いないが、名優たちの声のメリハリや演技だけで観ている私達を釘付けできる作品は他にありません。特に、タクシー内でのブランドとスタンガーのド迫力のやり取りは映画史の中でも有名なシーンです。ただ、ラスト・シーンは少し物足りなさもややあった気もするが、これ以上の暴力シーンは社会的にも難しかったのかもしれない。
“波止場”は“欲望という名の電車”よりはるかに男臭いストーリーで、紅一点で映画初デビューのエヴァ・マリー・セイントが港湾労働者たちを相手にかなり目立った演技のせいか、アカデミー助演女優を受賞している。一方で、ブランドとは名コンビであるカール・マルデンをはじめ、ロッド・スタンガー、リーJ.コッブら3人共アカデミー助演男優にノミネートさせる熱演でブランドを大いに盛り上げた。のちに1972年“ゴッド・ファーザー”でブランドが2度目のオスカーを受賞した時も、やはり3人の助演男優がノミネートされていることからも、いかに助演役者が大切であるかが理解できる。
この作品を観ないでブランドを語ることはできません。
ほうろう
この当時の細野さん人脈の作品は、荒井由美始めとにかく演奏が素晴らしい。まあユーミンはコンポーザーとしてズバ抜けた才能があるのでキャラメル ママはそれを手助けした感じであったが、本作は作曲に演奏にと八面六臂の活躍で、かなり作品の色を左右する仕事ぶり。
正直メインの小坂さんは巧いが海外のソウルシンガーのそれとは違う。声の線も太くはないし、声量も並だ。ただ特質すべきはサザン以降顕著になる歌詞の聴きとれなさが皆無な点。やはり元はフォークの人、サウンドよりまず言葉なのだろう。加えて歌詞が軽妙洒脱な為、はっきり聞こえても恥ずかしくない。
あとタイトル曲を始め16ビートのノリの曲もいくつかあるが、実に巧く歌いこなしている。レイ チャールズをレイちゃん呼ばわりし、ただ声がデカイだけのどこぞのソウルシンガー気取りの大御所とは違う。彼女のリズムのモタリ具合は酷い。小坂さんが以後ゴスペルに傾倒したのは、勿論信仰あってのものだろうが、ソウルシンガーとしての資質が元々あったのだろう。
内田百けん (ちくま日本文学 1)
文学離れのこの時代に、購入しやすい文庫という形で日本文学全集を出してくれる筑摩書房に感謝。作家一人で一冊という制約もあり、代表作がすべて収録されていないのがやや残念だけど、好きな作家だけを揃えるもよし、全巻(!)買うもよし。
商品説明の欄に収録作品名が書かれていないので補足。
花火/山東京伝/件/流木/道連/短夜/波止場/豹/冥途/大宴会/流渦/水鳥/蘭陵王入陣曲/山高帽子/長春香/東京日記/サラサーテの盤/琥珀/遠洋漁業/風の神/虎列/炎煙鈔/雀の塒/薬喰/饗応/百鬼園日暦/餓鬼道肴蔬目録/一本七勺/無恒債者無恒心/蜻蛉玉/大瑠璃鳥/泥坊三昧/素人掏摸/長い塀/錬金術/特別阿房列車
らご (SHM-CD)
ボアダムス、想い出波止場といったアヴァンギャルドで騒々しい音楽に関わってきた山本精一の、「ポップなうたもの」路線時のバンドの初作が高音質バージョンで再発。
「ポップ」路線は後に『Crown of Fuzzy Groove』として結実するわけだけど、その山本自身の歌声がない作品でも感じられた「清らかさ」と薄靄がかかったような音像は本作にも見出される。
スピッツのトリビュート盤で「ロビンソン」を素直なバンドサウンドでカバーしていたけど、そういったJポップ風味のロックと並べても違和感がないほど歌詞の言葉は柔らかく、感情を抑えた朴訥な歌声はまっすぐ耳に届く。
誇張や芝居っ気のない自然体の歌がポップの肝要を成している、ということがわかる。