季刊 真夜中 No.14 2011 Early Autumn 特集:ノンフィクション
季刊のちょっと洒落た文芸誌。創刊号以来読んでいるけど、毎回趣向をこらした特集が楽しみな雑誌だけど、今回のノンフィクション特集は、今までの中でも、かなり心を打つ内容だった。
特集のタイトルは、「ノンフィクション 生き生きと世界を見る」。
良かったのは、石川直樹氏の「撮影地点:8848m ―エベレスト、真夜中の頂上アタック―」。久々に写真を見て感動してしまった。こんなに美しい写真、めったに見れないなぁ。
そのほか、木村俊介氏の 「“インタビュー”によるノンフィクション名作選 感情の遺跡 ―― 空に放たれた声を集めて」というブックガイドというのもいい。日頃、フィクションを読むことが多い自分だけど、ここに取り上げられているノンフィクションの紹介は見事で、読みたくなってしまう。
前田司郎氏の「小笠原記」も、小笠原でイルカを見に行こうと思っていた自分にピッタリ。世界遺産の話もあってタイムリーだ。
それよりも何よりも、今号のもっともすごかったのは、東北関東大震災の写真を集めたもの。文章は目に入らず、そこに取り上げられていた数々の報道写真に心を奪われてしまった。テレビでは報道されないものが一枚の写真で伝わる衝撃に言葉を失う。
いい特集でした。
愛でもない青春でもない旅立たない (講談社文庫)
本書はまず、この秀逸なる表題にしてすでに読者の心をしっかりつかむことができていると言えるだろう。その速攻ぶりに比べ、話の進展はちんたらして、なんとももどかしいような、ありきたりのような…
いずれにしても、まぁ、これが若者の生活だよな。
30年前の自分と自分の周りの風景を、改めて「現代語」で語られているようで、実に不思議な気分に陥った。
配置されるモノやサービスが変わっても、若者の心象風景は面白いくらい変わらないのではないかしら、と、何やら不思議な暖かみを感じることができた。
表題に言う「青春でもない」というより、まさに、あぁ、青春そのものだなぁと感じ入る。
と同時に、いつの時代も、オンナの方が先を行っているんだな、と。
いつも、オンナは不思議な生き物で、本書においても、そんなオンナの凄みと言うか、深さと言うか、そんなものを感じ、
またしても30年ほど前に(そして今もだが)そんなオンナに翻弄された若者としての自分をかいま見るようで、ちと恥ずかしいような、そんな気分を味わうんだった。
小品にして、よくできた秀作であると思う。
大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇 【DVD 】
よく「神は細部に宿る」などと言うけれど、この映画の作りは、細部がなんだか本当に「いい加減」に作ってあって、そこがまず良かった。その「いい加減」さの乗りのトーンを整えているのが主演の2人と現世で脇を固める役者達で、樹木希林と片桐はいりの掛け合いには有難ささえ漂ってくる。
入った後の地獄の世界も、なんかもう「いい加減」さ満載で、まぁ基本的な構成は崩れていないから安心して見られるのだけれど、「そんな乗り?!」とか「どんなルールなん?!」とか、恋人と突っ込みながら見る映画だよなぁ、と思います。
もちろん、いい加減だけでは小説も脚本も映画も成立しないので、地獄甘エビの前振りとか、「赤鬼」と「青鬼」の基本的なカラー(「色」のみならず、「キャラクター」のそれ)とか、温泉に来た時に舟上でうなだれている2人の前振り、金銭感覚の格差や兄弟姉妹の多さから匂う先進国と開発途上国の関係とかはしっかりしていて、最後は「愉しんでいただけましたか?!」という原作者と監督の笑顔が浮かぶかのようです。
最初は「なんか切れ味の悪いタイトルだよなぁ」と思って見始めましたが、観終わった後にはそれも含めての演出だったんだろうな、と思い、逆に本も見たくなりました。この作者なら、表紙とか、裏表紙とか、色々小細工してそうだものな、と思わせられたので。
という訳で、乗りとツッコミと、涙と感動を通過して、笑顔と期待が残り、値段的にも満足できるので☆5つ。
グレート生活アドベンチャー (新潮文庫)
演劇に関係する作家の小説という予備知識ゆえかもしれませんが、本作を読みながら舞台がちらついてしかたなかったです(暗転や独白なんかを用いて構成して、特にふたつ目の作品が)。ストーリーを楽しむような作品でないことはわかりますが、どうにも作者の日本語や句点に打ち方に馴染めませんでした。